高橋亨先生による解説文
今年の古典の日フォーラム
〈平安から江戸〉へ清元の曲と市川櫻香さんの舞踊
昨年1月28日に名古屋能楽堂で「古典の日フォーラム美しき愛知」という催しがありました。今回はその第2回となります。
古典の日が制定されたのは、2008年11月1日、京都国際会館で開催された源氏物語千年紀の国際フォーラム開会式です。私の亡き恩師秋山虔先生が開会の挨拶をなさり、天皇皇后、現在の上皇后陛下のもとで「古典の日」が宣言されました。
源氏物語にちなむ「古典の日」を名古屋で企画したのは市川櫻香さんで、櫻香さんは2008年「古典の日」制定に恩師12代目團十郎さん監修『源氏物語』12帖須磨を上賀茂神社で踊られました。
昨年も今回と同じく高校生たちの箏曲演奏に始まり、源氏物語桐壺巻現代語の朗読、市川櫻香さんと賛助の花柳京平さんの舞踊を、髙橋妙子のバイオリン演奏と結んだ催しもありました。5月15日には成田市で、第1部『源氏物語の世界』に続き、第2部『古典舞踊の世界』が、市川翠扇さんとむすめかぶきご一門によって演じられました。私も「源氏物語を知れば分かる日本文化」というお話をしました。
今回は、箏曲と「古典の日」宣言、文化庁の今泉柔剛氏の「ごあいさつ」が、式典です。次に「源氏物語のこころ」として、東京大学の高木和子さんの御講演のあと、私との対談があります。高木さんの源氏物語についてのお考えは、岩波新書などに示されていますが、フランスでの源氏物語会議の御体験など、国際的な視野から源氏物語と日本文化の伝統についてお話します。その後、市川櫻香さんと清元菊輔さん清元清美太夫による、源氏物語と紫式部にちなんだ舞踊があります。
源氏物語の世界は、光源氏に象徴される<光>が、物のけに通じるような<闇>と裏腹の世界として表現されています。美しい栄華の貴族生活が、光源氏と藤壷の密通の罪や権力闘争に支えられてあるのです。
清元菊輔さん作曲の「光源氏の『藤』」は、若紫巻で藤壷と密通した光源氏の詠んだ歌と、
藤の花のイメージを源氏物語の他の巻の言葉などと結合した曲と舞です。
『保名』は、貴公子の安倍保名が亡き恋人の幻を求めてさまようという清元の舞踊です。清元菊輔さんの三味線、清元清美太夫の浄瑠璃、そして市川櫻香さんと三人で演じられます。普段の演奏は6人で上演するところ、今回はいつもと違い、普段の清元舞踊「保名」を歌舞伎絵巻の華やかな絵とすれば、今回は、素描のような描き方になり「もののあわれを知る」源氏のテーマを考えたものになります。
源氏物語は、千年前の日本の、ほんの一部の貴族社会に生きた人々が生んだ作品ですが、今や世界文学また日本文化の伝統として普遍性を持つのです。ここ愛知県・名古屋能楽堂の古典の日フォーラムに来て下さった皆様とともに、この美しい伝統を未来に向けて続けたいと願っています。
「光源氏の『藤』」 源氏物語より の歌詞をこちらからご覧いただけます。
詳細やチケットの購入はこちらから